花見正樹のストレス・エッセイ
家庭ストレス-4
ストレス症になりやすい人
前回までは、生真面目なエリートサラリーマンA君の実例でストレスの怖さを述べたが、これに似た話はいくらでもある。
人間研究の第一人者であるミルトン・フリードマン博士の研究に、前述のA君に似たタイプがある。
眼がよくなる本(二見書房)でお馴染みの米国のフリードマン博士が発表した「Aタイプ人間」とは、責任感が強く、活動的、積極的に率先して自分から行動する有能なタイプであるとする。これだと非の打ちどころのない優秀な人間像が浮かび上がる。
ところが、このAタイプが誰よりも一番にストレス症に蝕まれやすく、心臓発作にまる率も人一倍高いという。
これは肉体的緊張と精神的緊張のアンバランスから起こる現象で、その因果関係についても発表されている。
このようなAタイプ人間は、まず自分の行動が自分の思い通りにならないとたちまち自己反省、自己嫌悪、自信のぐらつき、不安から、眠りにつくときでも一日のできごとを思い出したりして、心と体の疲れで休息が必要なのに、頭が冴えきって寝つかれず、しかも、朝早く目覚めてしまい慢性的な寝不足に悩まされ、こうじて不眠症に突入することもある。
これでは心臓にいいはずがない。
家庭内暴力の家庭を調べると、夜ふかしの多い家庭に多いという説がある。受験生、午前帰館亭主、夜遊び息子、深夜番組視聴女房(当然、朝は遅く家事はおろそか)、家族の対話などおよそ皆無だから、意思の疎通など絶対に縁がない。
亭主がA型人間だと働き蜂だが、蜂と違うのは蜜は運んで来ない。帰宅は当然遅い。
女房は教育ママ、一人のモヤシッ子を大切に壊れ物を扱うように、亭主とおなじようなA型人間に育てようとする。
「勉強してエラクならないと、お父さんみたいになれないのよ」
あるいは、「ここでがんばれば、あなたもお父さんみたいになれるわよ」
どっちにしても、お乳さん、お父さんでは、子供こそいい迷惑だ。
では、その優秀なお父さんの一日を追ってみよう。
満員電車で出勤して、お茶飲んで、会議に出て、早足で部屋の中を歩いて、電話をかけまくって、急がしそうに昼食を食べ、喫茶店で伽排、タクシーで取引先へ、頭ペコペコ腹の中は不満だらけ、値引きを断り、嫌味を言われ、小額の受注でも不満を言えず、過去のクレームなどを引き受けて会社に帰る頃は他社の社員の退社どき、それから伝票整理、上司からの叱責、部下はと見回すとすでに退社してもぬけの殻、数少ない孤独な同僚を見つけて大衆酒場に誘って愚痴を吐き出しての千鳥足のはしご酒、で、いつも通りに戻り深夜のご帰館となる。
「お帰りなさい。今日も遅くまでお疲れさま」
こうして蛙の子はおたまじゃくしから蛙になってゆく。間違ってもナマズにはなれないのだ。